「もう十日か……君はその時、私が王位を継承すると?」
「……そうなのでショ? 最近王様の周りが慌ただしいもの。アナタも本当はワタシに会っている場合でないのでは?」

 少女を抱え込んだまま、改めて深く腰を沈めたウェスティは、見下ろす翠色の視線から瞳を逸らし、幽かに息を吐き出した。

「どうだろうね……私はこの国にとっては忌み嫌われるべき王子であるのだから。国民が受け入れるとは思えないな……」

 珍しく自信のない台詞を零した目の前の彼に、意外そうな表情を向け瞳を丸くする。タランティーナは先程のウェスティと同じように少しだけ首を傾げた。

「どうかしたの? スティらしくもないわ。アナタはこの国のくだらない『迷信』と『伝統』を、(くつがえ)す為に生まれたのでショ? 二千六百年のヴェルの歴史上、アナタと同じ容姿で生まれたのはたった三人……それにアナタのお母様が、今でも深く王様を愛していらっしゃるのはワタシだって知っているわ。きっとジュエルの勘違いか、気まぐれなイタズラだったのヨー! そんなこと、気にする必要なんかないわ」

 王家アイフェンマイアが所有する『ラヴェンダー・ジュエル』と、同じ薄紫色の左眼。王位継承者となるべき者であれば、本来なら黒曜石の色をして、右眼に宿されるべきであった。が、彼が美しい黒を手に入れたのは、瞳ではなく髪だった──それは相対する「排除されるべき」子の(あかし)──だが彼はこうしてこの歳まで、王の庇護のまま王宮の片隅にて、誰にも知られることなく育てられた。この事実は何を意味するものなのか? 彼はどのような宿命の許に生きてきたのか──。