「制服のまま来るなんて珍しいね? 急ぐ用でもあった?」
「あ! そうそう~授業で作った物を自慢しようと思って!」

 このまま見詰め合っていたら、顔から火が出てしまいそうだと思った矢先、ウェスティはタイミング良く少女を解き放す質問をした。タランティーナは慌てて立ち上がり、自分の鞄の中から大きめの布包みを取り出す。

「これ、スティにプレゼントしようと思って作ったの。良かったら受け取ってもらえるかしら?」
「プレゼント……?」

 手渡されたふっくらとした包装を、ウェスティも身を起こしながら丁寧に開いた。中から現れたのは淡い紫の塊。ハイデンベルクの工房で染められた毛糸だ。広げてみればそれは綺麗に編み込まれたマフラーだった。

「これを……私に?」

 問いながら僅かに首を(かし)げる。ヴェルは一年を通して温暖な地だ。明らかに防寒具の不要な国だった。

「エエ。アナタはきっと王位を継承したら、ヨーロッパへ出ていくことになるのでショ? 寒い季節もあるのだと聞いたわ。その時使ってもらえたらと……もちろん気に入ってくれたらだけど」
「気に入らない訳がないよ。編み目も揃って美しい。ありがとう……でもこんな授業があるとは知らなかったな」

 ウェスティは嬉しそうに瞳を細め、それからマフラーを一巻きしてみせた。

「手芸の時間に何を作っても良いって言われたのヨ。みんなは刺繍やレース編みなんてしていたけど、さすがにマフラーを作ったのはワタシだけだったわネ。だから「コレをどうする気なの?」って、みんなから質問されて……はぐらかすのに一苦労だったわー」

 そう言いながら照れ隠しにウィンクをしたタランティーナは、ウェスティに向け両手を掲げた。首の後ろへ回し、マフラーに巻き込まれた彼の長髪を自由にしてやった。

「授業以外でも時間を取らなければ、こんなに長くは編めなかっただろうね。私の為に、嬉しいよ」

 離れようとする彼女に近付き、今一度抱き寄せる彼。

「あと十日で十八の誕生日でショ? 少し早いけれど……バースディ・プレゼントも兼ねてヨ」

 再び懐に入れられたタランティーナは、そのぬくもりにそっと頬を寄せた。目の前に垂れたマフラーの房が、愛おしそうに肌を撫でた。