そうなのだ──。



 ──ヴェルは西の海に存在する。



 けれど海の上には浮いていなかった。

 西の海の上空に浮かんでいて、島の下面と側面は、見つからないよう雲で隠されていたのだと云う。

 だからこそ飛行船でしか行き来の出来なかった国。それが海まで降りてきた!

「ジュエルが消滅したのでは? との危惧もあり、僕達は取る物もとりあえず、此処を訪ねることにした訳です。先程ラヴェルとジュエルの様子を診ましたが、ジュエルはしっかりと存在し、特に以前と変わった様子も見られませんので、おそらくラヴェルの主張を受け入れたのではないかと」
「ジュエルが……」

 自分の左側に位置するラヴェルの部屋へ顔を向け、唇を引き締めた。ラヴェルの想い──ようやくジュエルに届いたんだ。

「でネ、ユスリハちゃん」

 目の前のタラに呼ばれ、ふと首を戻す。頬杖を突いてニコニコ微笑むタラの顔が、以前のラヴェルと重なった。

「ラウルを連れて、一度ヴェルに来てみない? 三家系の乙女が揃ったラヴェンダーの地なら……ラウルを呼び起こせるんじゃないかと。ヴェルには今、ツパイとワタシを含めて八人の乙女が居るのヨ。みんなも協力するって言ってくれてるの」
「八人……」

 そして、あたしが九人目?

「ユスリハを合わせて、三家系にそれぞれ三人ずつ。ラヴェンダーのエネルギーに包まれた祖国で祈りを捧げれば、ラヴェルとジュエルに何かしらの影響を与えられると、僕達は予測しています。ユスリハ……いかがでしょう?」

 続けたツパイの口元も問い掛けた。あたしは二人を交互に見回し、やがて微笑んだ。

「行くに決まってるわ! ラヴェルが戻るなら、いつだって、何処へだって!!」

 そうよ、そうに決まってる! それにジュエルが観念したんだ。ガマン比べにラヴェルが勝った! きっと彼は戻ってくる!!

 いや……もしかして……ジュエルもラヴェルも、あたしが学校と研修と試験を終えるのを、ずっと待っていてくれた……? そして今、整備士としても操船士としても、どちらの試験もトップで合格したあたしには、ヴェルへ行って帰ってこられる程の余裕の時間を、ご褒美として与えられているのだ。