「もう大丈夫だよ、お嬢さん」



 けれど開かれた先にあったのは、しなやかで力強い『生』だった。

「あ……」

 目の前にあったのは血に濡れた両親の遺骸などではなく、血の通った生きている人。

 漆黒の流れるような長い髪は、化け物の黒い塊とは明らかに違っていた。

 優しい薄紫色の宝石のような瞳。温かな微笑みがあたしを包み込んで、そして本当に包まれたのだ。二度と見てはならない物を全て隠すように抱き留めて、あたしを安全な所へ隠してくれた。

「そう……おじいさんが居るんだね? それまで此処に隠れていられる? 私があの化け物を退治したから、もう危険はないけれど。でも君にはあの庭を見せたくないんだ。だからおじいさんが帰ってくるまで此処にいて。お嬢さんの名前は何て言うの?」

 あたしは(かす)れた小さな声で、何とか答えていた。「ユスリハ。ユスリハ=ミュールレイン」だって。

「ユスリハ……良い名前だ。でも親愛の(しるし)として……そうだな、ユーシィって呼んでいい? 君は気丈で聡明なお嬢さんだね」

 大きくてスラりとした指と手が、あたしの小さな頬に触れた。まだ八歳のあたしでも、彼が美しいことは感じ取れて、刹那触れられた肌は上気して火照(ほて)っていた。