同じく失神させられていたアイガーが意識を取り戻し、苦しそうなツパイの許へ歩み寄った。ピータンも慌てたように飛んできて、ラヴェルの頬にしがみついた。

「ツパイ! ごめん……ごめんね、あたし──」

 目を離さないでって言われたのに……結局あたしは何も出来なかった──。

「いいえ、ユスリハ。ジュエルの戻ったラヴェルでは、誰も止められないことは分かっていました。どうか気にしないでください」

 普段の呼吸を取り戻したツパイが、そう微笑んであたしの隣へ腰を降ろした。

「ラヴェル……貴方が王家の図書室で、古い文献を調べていたのは知っていました。貴方は……鍵の付いた祈りをジュエルに願ったのでしょう?」
「鍵の……付いた?」

 ──祈り?

 ツパイの問い掛けとあたしの呟きに、ラヴェルは顔を歪ませ小さく(わら)った。

「相変わらず……ツパは、何でもお見通しで……困るよ」

 タラとあたしの疑問を乗せた視線が、再びツパイへ移る。

「ジュエルの継承者には唯一無二の願いが認められているのです。通常の祈りはジュエルによって精査されています。ラヴェルがユスリハに口づけて、却下されたのがそれに当たりますね。心から祈られた願いの内、叶えるべきとジュエルが認めた物は、魔法となって発動されますが、それ以外はジュエルも動きません。まぁウェスティに限っては、『宿した』のではなく『捕らえた』為に、八割方ジュエルを掌握していたようですが」

 そう一息に告げ、ツパイの口元も歪んだ哂いを寄せた。

「ですがたった一つだけ、鍵の付いた祈りのみ、ジュエルは拒絶が出来ないのです。その願いがどんな内容であれ、宿主の大いなる覚悟が込められている故」
「大いなる覚悟?」

 再び呟かれたあたしの声に、ツパイは一つ大きく頷いた。

「その願いを叶える代償……それが『自分の命』だからです」