「あっ──?」

 両肩に置いていた掌で、咄嗟に彼の両頬を包み込んだ。無理矢理あたしへ向けさせられて、驚きの声を上げたラヴェルの瞳は、まだタラの告げた言葉の意味も、あたしの真剣な眼差しも理解出来ていなそうに思えた。

「──ラヴェル」
「……ユーシィ……?」

 本当は笑顔で名前を呼びたかったのに。きっと……とても怖い顔をしている。

 ずっと知っていたんだ。気付いていた。名前を呼べなかったのは、喜んで弓なりになる、この眼に吸い込まれそうだったからだ……あなたを好きになってしまうのが怖かった。

「あたしは……あなたのことが……大好きよ。ラヴェルのことが……好きなの! だから……早く元に戻して!!」

 言っちゃった……顔が熱い。その熱があたしの手を伝って、ラヴェルの頬を温かく染めた。

「ありがとう……ユーシィ」

 一度離れていた彼の手が、再びあたしの頬へ戻ってきた。とても嬉しそうなラヴェルの顔。なのに──

「でも、ごめんね……もうこれは止められない」

 そうしてまるで脱力するかのように、ラヴェルの腕が草の上に落ちた。

「タ、タラ!!」
「うーん……ゴメン。ワタシもこんなこと初めてで……ラウル、ウソついてるなら白状なさい? 自分でジュエルに願ったことが止められないなんてことないでショ?」

 常に自信に満ちたタラの表情にも焦りの(かげ)が帯びていた。どうしよう……このままじゃ……本当にラヴェルが消えてしまう。