「初めに約束したね? あのキスも『なかったこと』にするって……ごめん、あの時自分はジュエルに願ったんだ……ユーシィが自分のことを好きにならないようにって。そんな願いの為のキスが、君にとってのファースト・キスなんて……嫌でしょ?」
「んなっ──!」

 嘘、でしょ……? そんなこと、絶対、嘘、だ。だって、あたしは──!!

「だったら……こ、こうなる日を見越して、そんな魔法を掛けたって言うの!? なのに記憶から消えちゃうならって、あんなにあたしを抱き締めたの!? キスを迫ったの?? 恋してるって言ったのは何だったのよ!!」
「……嫌いな男から、しつこくされたら……もっと嫌いになると思ったから……」
「ええっ!?」

 やっぱりこいつは朴念仁(ぼくねんじん)だ! あたしは触れられる度、あなたを意識していったのに……もっと……触れたいと思ったのに──!!

「あ~あっ、やっぱりラウルは可愛い弟ちゃんだったかー! 幾ら人との付き合いが薄かった人生でも、もう少し女心が分かると思ってたのにネ~エ? ユスリハちゃん?」
「タラ?」

 その時ラヴェルの先の遠くから、呆れた声と起き上がる細い影が揺らいだ。立ち上がり近付き、ラヴェルを挟んで、あたしの向かい側にそっと寄り添う。

「まったく……気絶させられるなんてワタシも油断したわ。そんな本心のカケラもない願いなんて、ジュエルだって却下するに決まってるじゃな~い! 魔法が掛かっていないこと、ユスリハちゃんを見ていて分からなかったの?」
「タラ……?」

 ラヴェルが不思議そうにタラの名を呼んだ。どうして……こんなことするの? ジュエルを消さなければならないの? 消す為にあなたが苦しまなければならないのよ!?