「あなたの……『なかったこと』にするって、こういうことなの……?」

 あたしは彼の隣にしゃがみ込んで、両脇の布を握ったまま、ラヴェルの顔の真上から問い掛けた。

「全ては……このジュエルが根源だからね……。これさえなければ……全ては『なかったこと』になる……」

 やっと応えた彼の声はとても苦しそうだった。

「な、に……言っているのよ? もう『なかったこと』になんかする必要ないじゃない!!」

 そうよ……なのにどうして今更──?

「もちろん……亡くなった人達は還らない……でも、ジュエルが消えれば、テイルの息子も……ミルモと君の両親も……スティとザイーダに殺されたっていう、辛過ぎる記憶はなくなるよ」
「そんなの……! どうだっていいことだわっ、あたしもミルモもそれをちゃんと受け入れたじゃない! 受け留めて、それで一つ山を飛び越した……悲しみは時に人を強くするのよ? それはあなただって分かってるでしょ? 分かってあたしにミルモを任せてくれたんでしょ!? やめて……お願いだから、こんなの早く止めて!!」
「ユーシィ……」

 あたしはラヴェルの両肩に手を置き揺さぶった。目の前に居るのに、触れているのに、ラヴェルが居なくなろうとしている気がする。

 ラヴェルは一度にっこり瞳を細めて、震える右手をあたしの頬まで伸ばした。どうして? 何故いつもそんなに(はかな)い笑顔を見せるの?