「うっ……」

 あたしは小さく(うめ)き声を上げて、霞む視界に目を凝らした。次第に鮮明になる色は美しく淡い碧。ああ、見えるのは空、だ……漂う小さな花々の匂いが、仰向けに倒れていることを気付かせてくれた。

「魔法で眠らせたのは、失敗だったか……自分が弱まるにつれ、解けてしまうことまで考えなかった……」
「え?」

 左隣から聞こえる()れた声に、疑問を投げ掛け首を反らせる。あたしの鼻先には同じように、大地を背にしたラヴェルの横顔があった。

「な、何!? ねっ、何をしたの!?」
「……」

 途端半身を起こして寄ったあたしの影に、ラヴェルは瞳だけは向けたけれど、何も言葉にしようとはしなかった。

「答えて! あなた一体何をしたのよっ!!」

 詰め寄り、服のサイドを掴んで催促しても、ラヴェルは身じろぎもせず、いつもの柔らかい微笑を(たた)えるだけだ。でも──

 何かがおかしい……ラヴェルの身体が……ラヴェルが、消えてしまいそうな……嫌な予感が辺りを取り巻いている──。