数秒経った頃だろうか? 背けたことで二人の許へ向けられた右耳に、何かが倒れたような葉擦れの音が草地から響いてきた。

「タラ……?」

 ウェスティの遺骸に並ぶようタラは横たわりピクりともしない。その横で悠然と立ち上がったラヴェルの背中は、いつになく凛としていた。風が巻き起こる。黒いマントがたなびき、その上のラヴェンダー色の髪から毛先の黒みが、風に(さら)われるように消えていった。

「タラに……何をしたの?」

 あたしは不思議と恐怖を感じ、発した疑問は震えていた。足先が遠ざかろうと、つい後ずさりをした。

「大丈夫だよ……ちょっと眠ってもらっただけ」

 振り向いたラヴェルの面差しは、今までの彼とは全く違っていた。力強い瞳から発せられるみなぎるエネルギー、弓なりに上がる口角には自信が満ち溢れ、これこそがジュエルの力を得た本来の宿主の姿なのだろうか?

「約束したね……ご褒美の、頬にキス」

 真っ直ぐあたしへ歩みを進める颯爽とした足取りと言葉に、あたしは一瞬ギクりとした。何……これ? 凄く、嫌だ……キスなんて、しないでほしい──!

 その時あたしは思い出した。ツパイが最後に言った言葉。



『ラヴェルから目を離さないでください。少し……気になることがあるのです』



 これがツパイの気になることなの!?