「さぁて! ラウル、ジュエルがお待ちかねヨ」
「ああ……」

 気を取り直すようにタラが元気な声を上げた。ずっとしがみつかれたままのラヴェルが決まりの悪そうに頷いて、あたしは慌ててその腕を放した。

 ラヴェルはソードを地面に突き刺し、タラの隣へ腰を降ろした。ウェスティの右眼からジュエルをそっと(えぐ)り出す。その瞬間喜びを伝えるように、ジュエルが鮮やかな光を放った。涙と血に汚れた表面が、磨かれたような美しさを取り戻し、ラヴェルは自分の義眼を外して、ジュエルを左眼に差し込んだ。

 その瞬間、今までに決して見せたことのない荘厳な輝きが辺りを包み込んだ! 光から柔らかく漂う……ラヴェンダーの薫り。

「ラウル……」

 隣に座すタラの横顔が、ラヴェルの姿を目にしながら呟く。何処か畏敬の念を含んだような、少し(かす)れた声だった。

「これを当てにしてたんだろうけど……タラも無茶するね」

 そうして涼しげなラヴェルの横顔はクスりと笑い、懐から以前ツパイが手渡した小袋を取り出した──ミルモの為に残しておいた癒しの薬粉──ラヴェルはタラの傍に落ちていた短剣で軽く指の腹を傷付け、其処から(したた)る血液とそれを合わせて、タラの(ただ)れたようなフランベルジェの傷口に優しく塗り付けた。

「さすがジュエルの力は違うわネー、もう痛みがなくなった!」
「傷もその内消えるよ。あとは大丈夫?」

 その問いに「エエ」と頷くタラ。元の位置に戻ったこちら側の頬が、ふとラヴェルの右手で包み込まれた。

「アラ……なぁに? もしかして前にお願いした『お礼のキス』でもホッペにくれるの?」
「そうだよ。今までありがとう、タラ」
「どういたしまして」

 ラヴェルの鼻先がタラの向こう側の頬に近付いていった。重なる二人のシルエットがやけに美しく感じられて、あたしは瞬間顔を逸らしていた。違う……きっと、あたしはタラに妬いたんだ。