ゆらり、ゆらり、
 揺れて、揺れる。

 飛行船の穏やかで小刻みな振動が、何かを思い出させていた。

 ううん、違う。この一日に沢山のことを思い出し過ぎて、あたしの脳はきっとパンクをした。

 だから夢が全てを整理しようと、あたしの脳内をパタパタと動かしているのだ。まるで散らばったパズルを並べ直すかのように。

 おじいちゃんは依頼された修理に出掛けていた。父さんは休業日で家庭菜園を耕していて、母さんは……洗濯でもしていたのかな。八歳のあたしは何をしていたのだろう? 二人から少し離れた所で独り遊んでいたのは確かだ。

 麗らかな良い天気だった筈なのに、急に低く暗い雲が立ち込めて、冷たい風がシュウシュウと音を立てた。音と共に何かがやって来た。毛むくじゃらで黒くて大きな……黄色い眼と、鋭い爪と牙。

 あっと言う間に父さんを、母さんを、引き倒して切り裂き砕いた。叫びすらも間に合わなかった数秒のオワリ。染められていく紅い視界。黒と赤と──黄色い眼。

 あの赤が血の海だと気付くのに、八歳という年齢はもう十分な成長だった。そしてこれから自分にも訪れる、(あらが)いようのない死への恐怖も。

 コワイ、こわい、でも動けない。

 それでも何とか瞼は閉じた。暗闇の中で聞こえたのはおぞましい(うめ)き。それが長く連なって、やがて消え去った後に、あたしの瞼は押し上げられることを切望した。暗黒と沈黙から逃れたかったから。たとえそうすることが『死』に導かれることであったとしても──。