「ユーシィ!!」

 伸ばされた手に手を重ね、すぐさま引き寄せられたラヴェルの胸にすがりつく。いつの間にか首へ巻きつけた黒いマントが包み込み、浮かび上がって二人背後の木の枝に飛び移った。

「無茶しないでくれ!」
「でもっ!」

 あたしは……そしてラヴェルは──。

 もうお互いを抱える腕を放さなかった。嫌だ、もう……離れたくない!

 その想いを(たた)えた潤んだ瞳が、ラヴェルの二の句を黙らせていた。きっと彼はこう言いたかった筈──「此処でしばらく隠れていて」と。

「君も頑固だね……早くしないとタラも二匹も危ない。これから飛び降りるけど覚悟はいい?」
「うんっ!」

 あたしは抱き締める腕に力を込めた。

「行くよ? スティまで辿り着いたらジュエルに祈って。もうそれが唯一のチャンスかも知れない」
「わ、分かった!」

 あたしの返事が終わりを告げる前に、ラヴェルはあたしごと地上へ飛び降りていた。着地する寸前に前方に移動し、苦しげな足取りでタラに近付くウェスティの背後へ降り立った。

「「ジュエル!!」」

 ラヴェルとあたしの祈りの声が、広い背中に反響した。

「ウル! もう終わりだ……全員死ね!!」

 振り向いたウェスティの左眼は焦点が合っていなかった。狂ったような奇怪な嗤い、胸元を押さえた左手は、その手とその胸を裂くように溢れる真っ赤な血潮で染められていた。