「タランティーナは約束してあげよう。だがウルは別だ。そして……彼を倒す前に『証明』が欲しい」
「証明?」

 ふとウェスティへ顔を上げる。横目に映ったラヴェルの表情には、悔しさが滲んでいた。

「『花嫁』としての誓約だよ。立会人がウルとタランティーナとは……これまた最高の演出だな」
「ダメだ……ユーシィ!」

 ラヴェルの大声に瞬間胸が潰れた。でも……これはもちろん想定内だ。いえむしろ……あたしはこの時を待っていた。

 花束を右手に持ち替えて、左手をウェスティに伸ばす。ずっと上にあった彼の頬に触れるや、腰を屈めてそれはあたしの少し上まで降りてきた。怖ろしいザイーダの瞳。でも、もう片側は……ラヴェルの髪色の優しいジュエル。

「誓いの……口づけを」

 あたしはそう告げて顔を近付けた。それでもウェスティは警戒するように瞳は閉じず、右手の剣も下げられることはなかった。

 まもなく触れる唇の距離──その時。あたしの右手はおもむろにブーケを落とした。代わりに手にした物、それは──。

「こんな(なまく)らで私を()れるとでも?」
「あっ──」

 あたしが手に持ち彼を貫こうとした()()は、ウェスティの血に染められた左手で押し留められていた。街で購入したこの日の為の『道具』──ブーケに隠れる短めの、ナイフ。

「これくらいは見通していた範囲だ。両親を殺したザイーダを見た君が、私の許へなど来るとは思えなかったからね」

 ウェスティは嘲笑うように唇を吊り上げ、ナイフを刃ごと掴んだ手に力を込めた。万事休す、だ……此処からひとまず逃れるにはどうしたらいい!?