やっとのことで上半身を起こしたタラは、目の前まで歩み寄った高い位置の(おもて)を見上げた。

 ウェスティの言葉にも動揺を表わさず、頬に乗せる不敵な微笑み。いや、もう捨て身なのかも知れない。ウェスティはそんな彼女の視線に合わせるように、おもむろに膝を落とした。

「ウルはこれから時間を掛けて八つ裂きにしてやろう。それを君に見せてあげられないのは……残念だがねっ」
「ぅあああああっ!!」

 台詞の終焉と共にウェスティの右腕が上下し、タラの左足首にフランベルジェが衝き立てられた。タラの悲鳴が轟き、あたしは咄嗟に草叢から飛び出して、近くの幹の影に隠れた──大丈夫。ウェスティには気付かれてはいない。

「好い声だ……君にも時間を掛けるべきか?」
「……その通りヨ……たっぷり、(もてあそ)んで……ちょうだい!」

 刹那タラの背後から光る何かが現れて、それは地に着いていたウェスティの左手の甲を突き刺した。短剣? タラはこの時を待っていたの!? でもこれで……ウェスティの左手は封じられた!!

「つぅぅ……さすが私を魅了してきただけの女ではあるか。が、そういうことなら──もはやこれで終わりだ!」
「タラぁぁぁ──!!」

 呼吸を取り戻したラヴェルが叫んだ。

 ダメだ……! 彼じゃ間に合わない!!

 再び立ち上がったウェスティの右手が振り上げられる。その足元で達観の微笑を(たた)えるタラへ向かって、あたしは急ぎ足を踏み出していた──!!