「ウェスティ……アナタこそが愚かだわ。このワタシを手に入れられなかったなんて!」

 その流れに一石を投じたのはタラだった。タラは突き出すべきレイピアを左から右に振り抜き、ウェスティの胸元を掠めながら、それを機に後ろへ飛び退(すさ)って、彼の攻撃範囲から逃れ遠のいた。

「君の色香に溺れて人生を終えるほど、小っぽけな野心ではないのでね……が、まだ逃げられる程の余力を残していたとは──惚れ直したよ」

 ニヤリと(わら)ったウェスティの口元が、おもむろに真一文字に戻る。同時に背後からラヴェルが切りつけ、ウェスティは頭上で両手の剣をクロスし、ラヴェルのソードを受け留めた。

「そんな野心なら、ワタシに溺れた方がマシだわっ!」

 タラは肩で息をしつつも吠えた。片手を地面に着き、低い体勢から前方へ飛ぶ。レイピアの切っ先はウェスティの左足を狙い、が、彼は右の剣で依然ラヴェルを支えながら、左の剣でそれを打ち払った。レイピアごとウェスティの左方へ飛ばされたタラは、地面を滑り草を(なら)しながら転がった。

「タラっ!!」

 ラヴェルが叫び、ウェスティに今一度振り被った。反転し片手で剣を交え、もう片方の剣がラヴェルに襲い掛かる。彼の両刀が自由な限り、ラヴェルには勝ち目がないのかも知れない。一方を封じても、もう一方が攻め続けては──自身を守るだけで限界なのだ。

「そろそろお遊びは終わりにしようか、ウル。が……先にタランティーナを眠らせてあげよう」
「スティ……!」

 タラが動けない今、もはやラヴェルに対抗策は有り得るのか……それでも何とか懐に入り込み、剣先をよけながら、ウェスティに切り込み続けた。静寂の森に刃のぶつかる高い音が響き渡る。けれどラヴェルの攻撃は徐々に弱まり、防御一辺倒になり始めた。彼だってウェスティの魔術を避けてきた疲労が溜まっているのだ。タラと同じように。