「タランティーナ」

 今までまるで静止画のようだった風景が、ウェスティのタラを呼ぶ声で動き出した。ラヴェルが剣を構え直し、と同時にウェスティの右手の剣が、身体はタラに向いたまま、ラヴェルの目の前の空間を捉えた。

「君の体力ではそろそろレイピアをあしらうのも難儀だろう? 剣士の君なら、私の『フランべルジェ』を知らない筈はない。この(やいば)に襲われたら……その美しい顔も身体も、一瞬にして醜い物に変わる」

 ウェスティの台詞はこの状況をまるで愉しんでいるようだった。そうして左手の剣が依然動かないタラの顔前へと上げられる。両手どちらの剣も刀身が燃える炎のように波打っていて、確かに……あれで切り付けられたら、傷口は見られたものではないだろうと察せられた。

「おあいにくサマ! ワタシだってみすみす餌食になる気なんてないわ」

 タラの返した言葉はいつも通り自信に満ちたものだった。けれど……その息遣いはとても荒い。きっと……虚勢を張るのが精一杯なところまで体力を消耗している、それは明らかだった。

「相変わらず口は減らないようだ。今命乞いをすれば、少しは考慮しないでもないのに……まったく愚かな女だよ、君は」

 左の剣が更に上がった。ウェスティが一歩タラに近付き、それに伴いラヴェルもまた一歩を進めた。

「ウル……お前は愚かでないなら、これ以上近付かない方が良い。私を仕留める前に、彼女は血まみれになる」
「くっ……」

 ラヴェルが悔しそうに声を吐いた。分かっているんだ……ウェスティの言う通りだと。

「ラウル、ウェスティの言葉なんか信じるのはやめなさい! アナタも剣士なら相手を倒すことに集中しなさい!!」
「……」

 ラヴェルは何も答えなかった。それはタラが自身を犠牲にするつもりでいるということなの? 三人の立ち位置はもうどうにも動けるとは思えないほど完璧な流れを帯びていて、誰が時を進めてもウェスティに分があるように思われた。