「ちょっ、何すんのよっ!!」

 案の定ヒュウっと音がして、ピータンがあたしに襲い掛かってくる。なのにラヴェルの抱き留める腕とは逆の手が、それを見事にキャッチしていて……何よ~ピータンもご主人様には敵わないって訳!?

「んー、おやすみのキスでもしようかと思って」
「えぇっ!?」

 余りの驚きに固まってしまう。やっぱりこいつは何処か頭のネジが緩んでいるに違いないっ!

「それって契約違反でしょ!? も、もう放してよっ!!」
「ほら、『なかったこと』に出来るから」

 こいつ……まさかあの金貨も『なかったこと』にするつもりなんじゃないでしょうね??

「なーんて、ね。さすがに冗談だよ。驚かせてごめん。おやすみ、ユーシィ」

 あたしを支えていた掌がスッと離れ、頭のてっぺんをふんわり撫ぜた。拗ね気味のピータンを肩に乗せ、ウィンク一つ、自分のカプセルに潜り込んでしまう。

「んなっ、なっ! なぁっっ!!」

 あたしは憤慨して唸り声を上げたけれど、ラヴェルのカプセルの照明が消され、淡い闇のシンとした静寂の中、独り怒りに震える自分がバカらしくなった。それに──

 強引な茶目っ気を押し出したラヴェルの瞳が、何処か寂しそうだったからだ……。

 ──一体何だって言うのよ、もう……。

 少しやけ気味にガシガシとカプセルに入りながら、ふと思い出した。そうだ……今も僅かに見えた……あの不自然な違和感のある“揺るがないモノ”。あれは多分、ラヴェルの右眼から感じられていた──。