分かってる……。

 ラヴェルが冷徹に言い捨てたのは、本当に足手まといだと思っているからじゃない。あたしを……守りたかったからだ。

 あたしの足元でピータンとアイガーが金網と格闘していた。あたしも同じようにタオルのロープから逃れようと身をよじってみたけれど、まったく外れる気配はない。

「もうっ、どうしよう~! 終わるまでこのままこうしてろって言うの!?」

 二人は何処でウェスティと落ち合うのか? 闘いはどう行なわれるのか? 勝つ為の策はちゃんとあるのか? ……何も訊けていない……何も知らない、なんて──。

 その時突然アイガーが、か細く長い遠吠えをした。途端、

『ユスリハ、聞こえますか?』
「ツパイ!?」

 ピータンの身体を介してツパイの声が聞こえてきたのだ!

「アイガーが傍に居なくても可能なのね!?」
『この距離でしたら、ギリギリ何とか……ですが、交信していても意味がありません。今、そちらへ向かいます』
「えっ!?」

 身体は眠っている筈のツパイがどうやって!?

 まもなくあたしの右耳に、背後のツパイの部屋からガタゴトと物音が響いてきた。近付くにつれそれはペタペタと素足が床に着く足音になったが、とてもゆっくりで均一ではなかった。

「さすがに……無理に起き出すのは、キツいものがありますね……」
「ツパイ!!」

 廊下の曲がり角から見えたツパイは荒い呼吸をし、グッタリと壁に寄り掛かっていた。(わら)いを含んだ台詞も、やっとのことで吐き出したという調子だ。

「アイガー、後はお願いします……」

 まるで初めて歩いた赤子みたいな足取りで、ツパイは金網の上にもたれ倒れた。自分の体重を利用し、傾けたケージで隙間を作って、其処からサッとピータンとアイガーが飛び出した。すぐに二匹はあたしのロープを噛み切ろうと柱の後ろへ回り込んだ。