「もう……本当はウェスティから呼ばれているのね?」

 はたと立ち止まる、ラヴェルの足元。

「どうして……? 何で隠したの!?」

 返事のない・振り向かない彼の前まで進んで問い詰めた。黒曜石の義眼が、涙を(たた)えたように潤んで光った。

「君をこれ以上巻き込みたくないんだ。ユーシィが眠っている間にカタを付けてくる」

 いつも微笑を刻んでいるその(おもて)が、いつになく真顔になった。

「い、嫌よ……あたしも連れていって!」
「ダメだよ、ユーシィ。これはタラと自分の問題だ」

 嫌だ……そんなの。あたしにだって関係はある。あたしの両親だって、ウェスティに殺されたんだ!

 第一……もうラヴェルにこれ以上、辛い重荷を背負わせたくない!!

「お願いだから! あたしにだって仇討ちなんだからっ! ちょっと待ってて、すぐ支度するから!!」
「ユーシィ……」

 あたしの大声にあたし以外の部屋の扉が開いて、ピータンとアイガーと、そして赤い革のつなぎを着たタラが現れた。

「やぁだ、ラウルったら見つかっちゃったのぉ?」
「……ごめん」

 タラは後ろ髪を掻きながら、その手にはもうレイピアが握られていた。

 やっぱり嫌だ……タラにもウェスティのとどめなんて刺させたくない!

「ユスリハちゃん。心配しないで大丈夫ヨ。朝食の支度して待ってて~すぐ戻ってくるから!」
「タラ……」

 変わらないにこやかな笑顔。でもきっと……その裏には(ぬぐ)い切れない哀しみと苦しみを抱えている。

 あたしは部屋に戻ろうと向けていた背を返し、タラにゆっくり近付いた。視線は高い位置にあるタラの微笑みを見上げながら、いきなり両手だけを伸ばしレイピアを奪い取った。

「いやーん! 意表を突くなんて、ユスリハちゃんのイジワル~~~!!」

 驚いた声と苦笑いはおどけていたけれど、さすがのタラも慌てたようだった。

「お願い……少しだけ待ってて。あたしが支度をするまでの十分……いえ、五分でいいの」
「ユスリハちゃん~アナタのお陰で三日間たっぷり稽古が出来たの。ラウルも立派な剣士に昇格したんだから! 気にしないでココに居てちょうだい」

 タラは調子を崩さずにいたけれど、その眼は笑っていなかった。左手を差し伸べて歩み寄るその姿に、あたしは真剣な瞳を向けながら後ずさった。