その夜は、いつ・どんな方法でウェスティから交信がなされるのか、はたまた突然奇襲が訪れるのではないか? と気が気でないまま、それでも夜半には眠りに落ちていた。明け方の薄明かりが差し込む中、何処からか水の(したた)る音が響き、ふと瞳を開く。えと……これって……浴室の音かな。昨夜全員湯浴みは済ませた筈なのに、一体誰が使っているのだろう?

 あたしはだるそうに半身を起こし、うなじで髪を一つに(まと)めた。もしウェスティだったら、ザイーダだったら……まぁあたしが気付く前にラヴェル達が気付いているとは思うけれど……近くに立て掛けてあった傘を手に取り、忍び足で暗い廊下を進んだ。

「どうしたの? ユーシィ」
「ひゃっ」

 途端ガラりと浴室の引き戸が開いて、出てきたのはラヴェルだった。タオルで髪を掻きながら、キョトンとした眼で見詰めている。あたしは思わず剣の如く構えていた傘を、胸に抱き締めてしまった。

「ちょ、ちょっと何でまた湯浴みなんてしてるのよっ、それもこんな時間に~! ──あれ?」

 薄暗がりの中でも気付いてしまった。ラヴェルの髪の先は、出逢った時のように三センチ程が黒く染まっていた。

「あんまり見せたくなかったから、この時間にしたんだけどね……自分が疲労を溜め込んだとジュエルがスティを(あざむ)けているのなら、それ相応の芝居をしないとと思って」
「そ、そう……」

 お互いの気まずい表情がかち合う。染められた毛先は以前のように闇に溶けていた。

「それじゃ、また眠るから。ユーシィもゆっくり休んで」

 ──え?

 薄く笑んだラヴェルはすぐさま(きびす)を返し自室に戻ろうとした。でもその姿はもう寝着ではなく、普段愛用しているブルーグレーのつなぎを着ていたのだ。ウェスティの急襲にも対応出来るように、との備えとも思えたけれど、あたしの唇は即座に到った考えを言葉にしていた。