「あっ……た──!!」

 手にする前に思わず零れた声が確信していた。右から三つ目の小瓶のすぐ後ろ。薄紫色の液体が注がれている。そしてその瓶の下に敷かれた小さなカードには──



「お誕生日、おめでとう。ママの、大好きな可愛いミルモ。これからも……ずっと、仲良くしてね……沢山の愛を、込めて……フローラママ、より……」



「お、姉……ちゃん? そ……れって──!」

 フローラさんはザイーダに襲われる前に、香水を完成させていたんだ!

 これが此処に在ったのは、包装紙を選んでいる時に襲われて、慌てて隠したのかも知れない。

 あたしのメッセージを読み上げる声は、後半涙に震わされていた。

「ミルモ……ママはちゃんと約束、守ってたのね」
「ママ……──」

 愛らしい小瓶とメッセージカードを両手に、あたしはミルモの前にしゃがみ込み手渡した。

 受け取る小さな手も微かに震えている。あたしはその手から香水瓶が落ちないように、彼女の手の甲を包み込んで、涙で濡れた笑顔を向けた。

 それから再び沢山泣いたミルモは、もう一度顔を洗い、花束を抱え、小さなペーパーバッグに入れられた芳香蒸留水(ハーブウォーター)と香水を右腕にぶら下げて、あたし達の見送りに元気な笑顔で手を振った。

 祖父母の温かな微笑みと抱擁と、柔らかな光溢れる部屋の灯り。その優しさに包まれていく小さな背と、(かぐわ)しいラヴェンダーの薫りに満たされながら、あたし達も心躍る気持ちで帰路に着いた──。






■香水瓶

2011年、チュニジアで購入した物です。



      ◆第七章◆消えた理由を、どうやって!? ──完──