おじさんは快く身を退()いてくれて、あたしはミルモの小さな肩を抱き寄せ、先程までツパイと腰掛けていた見晴らしの良い場所へ戻った。

「ママの名前はフローラというのね。お花が大好きな人には相応(ふさわ)しい名前だわ」
「……うん……」

 ミルモは涙を落としながら、小さく同意の頷きを返した。

「ずっと……言えなくてごめんね、ミルモ。あたし、あなたのパパとママが居なくなった理由を隠してた。それは二人が居なくなっただけではないからなの。ミルモにはもっと辛いこと。それでも受け入れて前へ進んでほしい。だから辛くても言おうと決めたの。だって……二人は進みたくても、もう進めないから……」
「……え……?」

 疑問の顔を上げられた先のあたしも、ミルモのそれが伝染(うつ)ったように涙が溢れていた。でも……悲しくても止まってちゃダメなんだ。進まなくちゃ……だってあたし達の前にはまだ道があるんだから!

「ミルモのパパとママはね……黒い毛むくじゃらの化け物に襲われてしまったの。ミルモを置いて消えちゃったんじゃないのよ……その時……天国に召されたの……」
「あっ──」

 ミルモの顔がクシャクシャっと波打ち、覆った小さな両掌の中から、籠もった嗚咽が零れてきた。あたしは丸ごと彼女を抱き締めて、同じように一緒に泣いた。

「ママっ……パパぁ……!!」

 あたしもあの時こうやって泣いたんだろうか? あの時、おじいちゃんの胸の中で──それはとても優しくて温かくて……今のあたしの抱擁も、ミルモに同じ力を与えられているだろうか。

「ごめんね……ミルモ──」

 ミルモの向こう側でアイガーが遠吠えし、それからピタリと身を寄せた。あたしの背中はツパイに抱き締められ、三人と一匹は風を受けながら、お互いの温かみを心の底で感じていた──。



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