「ミルモだって……?」

 おじさんは驚愕の眼差しのまま、それを背後のミルモへと合わせた。

「君……ミルモというのかね? フローラさんとこのお嬢ちゃんかいっ?」
「ア……アタシ……」

 近付く小太りの身体に、怯えて後ずさりするミルモ。それを遮るようにアイガーが後ろへ回った。

「アイガー?」

 ミルモは首を回し足を止めた。アイガーの「恐くないよ」という訴えに気付き、おじさんの質問を受け留める。

「は、はい……フローラは、ママの名前、です」
「やっぱり! 彼女元気にしてるのかい? 突然来なくなってしまったから心配していたんだよ」
「……」

 ミルモは答えられずに俯いた。まさかミルモの信じる通り「パパと一緒に出ていった」とは言えなかったのだろう。

「あの、おじさん。ミルモのお義母(かあ)さんを知っているんですか!?」

 あたしとツパイも二人の許に駆け寄り問い掛けた。ハッとミルモの(おもて)が上がった。

「ああ……もう二年前になるかな。香水を作る為に分けてほしいと、昨日の君のように突然現れてね。それから毎年数回は摘みに来ていたんだ。作業中は必ず先刻(さっき)の唄を歌っていて、そりゃあ綺麗な歌声だった!」

 おじさんは彼女のそれを思い出すように、うっとりと眼を伏せ微笑んだ。

「最後に来たのは今シーズンの始まりだったね。まだ早いのに採りに来たのは、翌日が娘さんの誕生日だからだと言っていた。彼女の為だけの香水を作って驚かせるんだと……その名前が確かミルモだったのを思い出したんだ。あの時のプレゼント、ミルモは喜んで受け取ったのかい?」
「アタシ……ママは……アタシ……」

 わなわなと震える唇に手をやったミルモの声は、そのまま掻き消えて涙と代わった。

「おじさん、ごめんなさい。後で全てちゃんと説明します。今はミルモとあたし達だけにしてもらってもいいですか?」
「……何か事情がありそうだね……分かったよ。あの小屋に居るから、後で声を掛けておくれ」
「ありがとうございます」