ツパイとあたしはラヴェンダーの花々が見渡せる、とっておきの場所を見つけ腰を下ろした。

「ちょっと早かったかな……おじさん、まだ来ていないみたい」

 雲が依然立ち込めている為、ラヴェンダーは濃い紫色に見えた。風がないので芳香も微かだ。

「ユスリハがミルモに(こだわ)るのは、同じ【薫りの民】の義娘(むすめ)だから。だけではないのでしょう?」

 つと横に座るツパイを見る。彼女の(おもて)もこちらを見上げていた。口角はやんわりと上がっていて、仄かに微笑んでいるように見えた。

「うん……テイルさんの所で思ったの。嘘の未来で元気にするよりも、本当の過去を知って受け入れて自分の一部にして、先に進むべきだって」
「……それをラヴェルに知ってほしい。そう思ったのではないですか?」

 ツパイは何でもお見通しね。あたしは弱々しい笑みを見せて頷いた。

「大丈夫ですよ。ユスリハの想いは、もうラヴェルに届いていると思います」
「え?」

 今一度顔を突き合わせる。ツパイは数秒それに付き合ったけれど、まもなく正面を向き、ラヴェンダーと空の境界へ鼻先を合わせ、あたしはその横顔を覗き込んだ。

「貴女がこの旅で幾つかの成長を遂げたように、ラヴェルもまた人としての階段を昇りました。貴女がミルモを任せてほしいと言った時、彼は貴女の気持ちが分かったからこそ、それを受け入れたのだと思います。──ですから。どうか自信を持ってください。貴女の心からの言葉には、ちゃんと力が込められているのですよ」
「力……」

 ふと胸が熱くなった。あたしの心からの言葉。それがミルモにも届くだろうか?