「ミルモ……お願い、あたしの話を聞いてほしいの。あたし……少なからずあなたのお父さんとお義母(かあ)さんが居なくなった理由を知っているわ。お義母さんがあなたを捨てて、お父さんと去ったのではないことを、ミルモにちゃんと分かってもらいたいの」
「ウソ……ウソばっかり! あんた、あの女の仲間だったの!? どうりでおんなじ匂いがすると思ったっ! ……あの女に頼まれたの? アタシをダマして、やっぱりどこかに売ろうとしてるの!?」
「ちがっ──」
「あんたなんか、自分のパパとママのところでぬくぬくしてればいいじゃないっ! アタシは誰も頼らない……! アタシは独りでもちゃんと生きていくんだからっ!!」

 途端駆け出す小さな影。あたしは無意識にその後を追いかけていた。近付いた後ろ姿に最後のお願いを投げかけた。

「ミルモっ、聞いて! あたし、あの島の……ラヴェンダー畑で待ってるから! ずっと待ってるから!! お願いだから必ず来てね!!」

 それでもミルモの駆け足は止まらなかった。

「アイガー、付いてあげてください」

 ツパイはアイガーの背中を撫で、アイガーは一吠えミルモを追った。

「ごめん、ツパイ……やっぱりあたしじゃダメなのかな……」

 とぼとぼともう一つの小さな影の許へ戻り、意気消沈とばかり(こうべ)を垂れる。

「ユスリハらしくないですね。まだ勝機はあると思いますよ。アイガーを信じて、僕達はラヴェンダー畑で待ちましょう」
「そ、だよね……」

 あたしは薄く笑んで振り返った。ミルモとアイガーの消えた街角へ、瞳の焦点を合わせ息を吐いた──。