「いったた……」

 慌てて救急箱を持って来たラヴェルに手首を掴まれそうになって、あたしはもう一度噛まれては困るとその手を逃がし、「自分でやるわ」と取り出された消毒液を受け取った。

「ごめん……後でちゃんと叱っておくから」
「いいよ~叱るなんて……あたしがあんたの髪の毛取ろうとしたのが悪いのだし」

 「頬に付いてた」と言葉を添えたが、突っ走ってきた間に剥がれ落ちたのだろう、もう其処に髪はなかった。

「ユーシィは優しいね」

 絆創膏を差し出しながら、相変わらずのニコニコ顔が微笑む。

 違うって……ピータンが叱られちゃったら、あんたからの脅威に対抗出来なくなるからよ。優しいのではなくて、打算的だと言ってほしいわ。

 あたしはその顔に苦笑いを返した。

「そろそろ休む? ベッドはあの、後部の壁に埋まっているのがそうだよ」

 ラヴェルの指差した先に視線を向ける。確かに船尾方向の壁一面には上下左右に二つずつ、計四つの透明扉があって、内側はカーテンらしき布で目隠しされていた。

「あの中がベッド?」
「そう。カプセル式になっていて、ちょっと狭いけどそれなりに快適だよ。頭から入って、足を扉側にしてくれる?」
「え? 普通足から入るんじゃないの?」

 まぁどっちだっていいけど……お願いされる理由なんてあるんだろうか?

 するとラヴェルは周りの片付けを済ませ、あたしをその壁へと手招きした。

「これ、緊急時の脱出用カプセルなんだ。パラシュートは奥側に付いているから、扉側に頭を持ってくると、落下時に逆立ち状態になっちゃうんだよ。扉のロックはその横のボタンを足で押してくれればOK。頭側の天井部にシュート用のボタンがあるから、それは脱出する時以外は押さないでね。まぁ一応誤押し予防用の透明アクリルで守られているけど」
「な、なるほど……!」

 あたしは感嘆の息を吐きながら、ラヴェルが開いた左下の扉を覗き、カーテンを寄せて頭だけを突っ込んだ。扉の横のロックボタンと、ふかふかの布団のずっと向こうの天井にある、小さなボックスに目を凝らす。あれがきっとシュートボタンなのだろう。寝ぼけて押さないように気を付けなくちゃ。