それから三日振りの全員揃った朝食を済ませ、三日目となるミルモの居場所へ足を進めた。今日はこんもりとした雲が空を埋め尽くし、お陰で少し空気が優しい。それでも自己主張の強い太陽が恋しかった。あのラヴェンダー畑には、山陰から注ぐヴェールのような光のドレープが、きっとお似合いだろうと思っていた。

「此処なの。ちょっと待っててね」

 ツパイとアイガーを残して、忍び足で建物の隙間に身体を滑り込ませる。先に広がった中庭の視界はいつになく暗く、目を凝らしてみてもミルモの姿は見当たらなかった。

「こんにちは。君がミルモですね? 僕はツパイ。このアイガーの飼い主です」

 と、キョロキョロと落ち着かないあたしの後ろで、ツパイの挨拶が聞こえた──って……ん? ミルモ!?

「毎日良く飽きないわね~そんなに暇なの? だったら早く次の街へ行けばいいのに」

 昨日の少し馴染んだ感覚は消えていた。またふりだしに後戻り、か……いや、もっと分が悪そうだ。言葉の棘が胸に痛い。

「ミルモはアイガーが好きだと聞きました。これから少々お付き合い願えませんか?」
「……? あんたって何歳? こっちの人は飼い主じゃなかったのね。別にどっちでもいいけど」

 こっちの人って言われた~……仕方がないけどやっぱり辛い……。

「ユスリハもまた僕の家族ですから、アイガーの飼い主と言えますよ。ああ、ちなみに僕の外見は十歳程度です」
「外見??」

 ツパイのへこたれない淡々とした返しに、ミルモはペースを乱されていた。これならもしかしたら心近寄れるかも?

「とにかく……アタシ、あの小島だったら行かないわよ。行くんだったらもうココには来ないでっ」
「ミルモ……」

 あたしはつい名を呼びながら立ち尽くしてしまった。こんなことじゃダメだ……こんなことじゃ……。

 両拳を握って顔を赤くしたミルモは、くるりとあたし達へ背を向けた。その肩は(いか)っていて、何物をも受け入れる余地はなかった。やがて一歩を踏み出し遠ざかろうとする。

「ミルモっ!」

 それでもあたしの叫びに何とか彼女は足を止めた。少しだけ戻される視線。でもそれはまだ憎しみを帯びている。