「あの……おじさん。あのラヴェンダー畑はおじさんの物ですか?」

 地面に置いた籠はそのままに、しゃがみ込んだ身体を持ち上げ、おじさんはあたしの指差す方向へ顔を向けた。

「ああ、そうだよ。綺麗だろう?」

「は、はい! あの……明日、そのラヴェンダーを少し分けていただけませんか? お代はちゃんとお支払しますから……このくらいの時間にいらっしゃいますか?」

 明日──何とかミルモを説き伏せて来てみよう。やっぱり、此処でこの香りに包まれて心穏やかに話をしたら、ミルモも良い想い出を取り戻すかも知れない。あたしの話す真実にも耳を傾けてくれるかも知れない。

「もう季節も終わるからね……この籠みたいに房が完全な物は少ないけれど、多少見てくれの悪い物なら幾らでもタダで譲ってあげるよ。またこの時間に畑へおいでなさい」
「本当ですかっ!?」

 有難い申し出に満面の笑顔を返すや、おじさんもそれを受け取ったみたいに、益々皺の寄った目尻を細めてくれた。

「ありがとうございます!!」

 あたしは元気にお礼を言い、必ず来ますと約束して戻り……部屋で休んで小一時間、昨日のように今に到る訳で……。