「お嬢ちゃん、観光客かい?」

 そんな想いに(ふけ)り突っ立っているあたしに、目の前から声が掛けられた。背の低い気の良さそうな笑顔のおじさん。大きな籠を背負って、その中には……ラヴェンダーの花束が沢山積まれていた。

「あ、いえ。旅をしてはいるのですが、用がありましてこの街に」

 それでも明らかに視線はおじさんの背中に向かっていて、やっぱりお(のぼ)りさんに見えたに違いない。

「ラヴェンダー、お好きなのかい?」

 その興味津々な瞳に気付き、おじさんは「よっこらしょ」と一声、あたしの前に籠を降ろし中身を見せてくれた。

「わぁ~これだけ集まるとさすがに薫り高いですね! 母が昔これで香水を作っていたんです。すっかり忘れていたけど……思い出しました!」

 そうだ……確かにこの鼻をくすぐる芳香、母さんは香水を作りながら、部屋中に焚き込めて、あたしをこの色と香りで包み込んだ!!

「ラヴェンダーに良い想い出がありそうだね」

 ふふふと笑い、見上げる優しい眼差し。ハッとしたあたしは声にならないまま口を開けていた。そうよ……良い想い出。『ずっと優しいママ』だったお義母(かあ)さんとの間に、ミルモにだって良い想い出がある筈!