横になったベッドの上から、ぼんやりと天井を眺める。視界の端から茜色が見えた。もう……夕方か。食事の支度をしなくちゃ。

 あれからあたしはとぼとぼと、アイガーと共に東へ進んだ。門を抜けて海岸沿いを歩く。相変わらずの強い太陽に照らされて、波間は宝石を散りばめたように輝いていた。

 頭の中ではぐるぐると、ミルモとのやり取りが駆け巡っていた。どうしたら彼女は心を開いてくれるだろうか? どうしたら真相を話せるだろうか? ラヴェンダー畑には……どうしたら一緒に行くことが出来る?

 そうしている内に、島へと架けられた橋のたもとに辿り着いた。その先を見やれば、意外に近い丘のような小島。北面であるこちら側の斜面に、うっすらと淡い紫の一角が見える。きっとラヴェンダー畑だ。こんなに暑い夏の最中、涼しい島影だからこそ咲いていられるのだろう。

 どうしようかな……。

 一向に橋へと踏み出さないあたしの足元で、アイガーが「行こうよ」と促すように見上げていた。

「ねぇ、アイガー。今一人で行って、あたしに何が分かる?」

 クゥ~ンと一声、困った声が返ってきた。

「ごめん。そんなこと考えても仕方ないよね。島の入口まで、ちょっと行ってみようか?」

 その言葉で先頭を切った振られる尻尾に(いざな)われ、あたしは真っ直ぐな美しい橋を海風になびかれながら渡り始めた。

 海水の冷たさを含んだ気持ち良い潮の匂い、欄干の隙間から底まで見通せそうな透明な水面(みなも)が見える。時々小さな魚の群れが(かす)めていった。綺麗な濃い碧色の背びれ。

「此処を登っていくのかな?」

 ついに渡りきった先に人幅分の小道があった。眼で辿った方角にピタリとラヴェンダー色が映る。明日、ミルモと此処へ来たい。一緒にあの爽やかな香りに包まれたら、心穏やかに話せないだろうか?