「パパは……そのラヴェンダーの所為で居なくなったんだ! ずっと優しいママの振りしてたあの女にっ、パパは……パパは連れていかれちゃった──!!」

 頭を抱えて顔を隠すミルモは、小さく小さく身体を(こご)めて、自分の殻に閉じ籠もろうとして見えた。

「ね……ミルモ。本当に絶対にそうなのかな……?」
「え?」

 あたしは咄嗟に上げられたミルモの瞳に、膝を抱えて微笑みかけた。

「だってそのママはずっと優しかったんでしょ? 今あなたは言ったもの。『ずっと優しいママ』だって。ミルモがそう思ってるから、きっとその言葉が出たんだよ。そんなママがあなたを置いて、パパと一緒に出ていくと思う? 本当は違う理由があるんじゃないかな?」
「……違う理由って?」

 ザイーダに殺されたから──真実を伝えたい。でも……それは時期尚早に思われた。あたしは言葉を呑み込むように、喉元の唾を呑み込んだ。

「そ、それを探しに行ってみない? ラヴェンダー畑へ。何か手掛かりが見つかるかも知れない」
「……」

 ミルモは困ったように再び俯いてしまった。あともう一押しなんだろうか? その殻を破れたら、ミルモのピースは手の内に入る?

「ア、アタシ、やっぱり行かない!」

 あたしの焦りが伝播してしまったのかも知れない。
 ミルモは急に立ち上がり、背を向け走り去ってしまった。

 今回はあたしのミルモを呼ぶ声も、アイガーの慰める啼き声も、届くどころか口から出てくる隙も与えてはもらえなかった──。