背の高い噴水のような水飲み場は、上下二ヶ所から水が注いでいる。アイガーは下の出口の溜まり場から、あたしは上の出口から手で(すく)い、しばらく無言で飲み進めた。

「ありがとう、ミルモ」

 夢中で飲み続けるアイガーの横で、その様子を穏やかに見詰めるミルモ。煉瓦の仕切りに腰掛けた小さな姿に、あたしは一息ついてお礼を言った。

「それでー? 昨日みたいに、アイガーを走らせられる場所を案内しろって? もう十分走ったみたいだけど?」

 なかなか棘のある質問だけど、言葉数は明らかに多くなって、昨日程の警戒心はないように思えた。

 その言葉に笑ったあたしも、アイガーを挟んで仕切りに座る。

「ううん……昨日帰りにお土産屋さんの店先で、ラヴェンダーの産地だって知ったの。まだ何とか咲いているみたいだから、一緒に行ってみないかなぁって」

 特に決めていた台詞ではなかったものの、不思議と口を突いて出ていた。

「ラヴェンダー……」

 ふいに曇りうな垂れるミルモの(おもて)。やっぱり……きっとお義母(かあ)さんは、それで香水を作ってたんだ。

「いやっ、ラヴェンダーなんて……大っ嫌い!」
「ミルモ……」

 あたしはその言葉に、あたしを含むヴェルの民全てが拒絶された気持ちがした。そしてその代表──ラヴェル。