あたしはクスりと軽く笑って、ミルクを少しだけ飲んだ。ドライヤーの電源を入れ、熱い風を感じながら、窓に映る自分の向こうの空を望む。

 まるで宇宙を漂う小舟に揺られているようだ。見下ろしても点々と町の明かりが見えて、何処までも星と(そら)が続いている。きっと朝陽も綺麗なんだろうな……そうだ、明日は早起きしよう。

 そうして八割方髪が乾いた頃に、サッパリした顔のラヴェルが戻ってきた。タオルで髪を無造作に掻きながら、何も言わずに隣に座った。

 こいつは何の為に旅をしているんだろう。少なくとも同じ理由でないことは分かる。あたしの目指す西ではなくて、この飛行船は北へ向かっているから。

「あ、のさ……」

 もう一度旅の目的を問い(ただ)そうと、遠慮がちに声を掛けたところ、振り向いた右の頬に髪の毛が一本貼り付いていた。あたしは何の気なしに、それを取り去ろうと手を伸ばしたが、

「きっ、きゃああっ!!」

 何処からか飛んできたピータンに、思いっきり人差し指を噛まれていて……

「ユ、ユーシィ、大丈夫??」

 あたしの貞操もきっとピータンに守られて、万事大丈夫だな、と気付かされていた──。