「あ……の」
「ん?」

 赤らんだ頬は既に血の気が引いて青ざめていた。悲痛な面持ちを上げて、いつもの懐っこそうな笑顔に懇願する。

「し、死なないでよね……」

 その時ラヴェルはこの上ない嬉しそうな顔をした。

「スティにはもう誰も絶対に殺させないよ。タラも、自分も」
「……うん。や、約束だよ」

 満面の笑みは真摯で真剣な真顔に変わる。

「自分は二度と、ユーシィに嘘はつかないから」

 その言葉に嘘はないように思えた。

「うん、じゃ、頑張って」
「ありがとう、ユーシィ」

 ついに遠ざかる、ラヴェンダー色の髪。その背中はキリリとして、沢山の覚悟が詰まって見えた。そして感じる幾つもの消えていった命の重さ。それを背負ったラヴェルの後ろ姿は、力強くて、優しくて……手を伸ばせば未だ届く距離なのに、何かがあたしの邪魔をしている感じがした。

 扉を閉めて机の前に立つ。

 髪染めの箱と共に袋に入れられた、もう一つの品物を取り出し、あたしは息を呑んだ。

「使わずに済んだらいいのにな……」

 『忘れ物』の入った引き出しにそれを移し、今度は大きく息を吐いた。

 ミルモに一日も早く元気になってほしい。でも……ラヴェルが闘う日は遠ざかってほしい。

 あたしの心の中で二つの望みが葛藤した。

 それから夕食を作り終えるまでの時間、あたしは何度溜息をついたのだろう。それでも和やかで美味しい夕食と、まったりと流れる食後のひととき、明るい笑顔を絶やさなかった。

 あたしもきっとやれるよね。

 タラもラヴェルも、そしてあたしも……全てが終わったらみんなで笑おう。心の底から、一点の曇りもなく。

 その時ちゃんと言えるといいな。

 ラヴェル(あなた)のことが大好きだって──彼の口づけが頬に触れた瞬間に──。