その後も何の気なしにブラブラと店先を覗きながら、コテージの方向へ足を進めてゆく。観光地なのでとにかく土産店が多い。手刺繍の美しい壁掛けや木彫りの食器、銀細工。どれも購買欲をそそるけれど、その度にミルモの拒絶の眼差しがチラついた。

「あ……これ、ラヴェンダー?」

 入口横の背の高い木枝に、幾つもぶら下がった可愛い布袋を見て、アイガーも顔を上げその香りに鼻を寄せた。ラヴェンダーのサシェ。この辺の特産だろうか?

「お嬢さん、お一ついかが?」

 鮮やかな民族衣装を(まと)った中年女性の店主に声を掛けられた。目の前の一つを枝から抜き、あたしの掌に乗せてくれた。

「ラヴェンダー、近くに咲いてるんですか?」

 渡された物は小さな花柄で鳥の形をしていた。顔を近付ければ、独特で爽やかなハーブの香りが漂う。

「ええ、この街の向こう、東の砦から二キロ程先の小島に群生地があってね。まだギリギリ咲いているかしら。橋が掛かって船に乗らずとも行けるから、一度行ってみるといいよ」

 ラヴェンダー畑の小島──あたしはハッと店主からサシェに眼を向けた。【薫りの民】であるミルモのお義母(かあ)さんは、其処で香水を作っていたのかも知れない。

「あ、ありがとうございます! 行ってみます! あの、これ下さい」

 あたしは手の中の小鳥を差し出し、一つ光明を得られた気持ちと共に、そのサシェを手に入れた。







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