「あっ、おーい、ミルモ~! 飯確保出来たってよー!!」

 背後の窓辺から男の子の声が反響(こだま)した。

「う、うん! 今行く!!」

 我に返ったように(おもて)を上げ駆け出すミルモ。あたしは慌てて声を掛ける。

「ミルモっ、あの──」
「ごめん、アタシ行けない。今行かないとご飯食べられないから」

 振り返っても身体は()くようにあちらを向いたままだ。

「そう……それじゃ、また来るね。これ、良かったらアイガーが舐めちゃったお詫びに……」
「『施し』なんていらないっ!!」

 差し出したドライフルーツが、振り払ったミルモの手で宙を舞った。

「パパはあんなに優しかったのに、あんな女にダマされて出ていっちゃったんだ……アタシを置いて! でもアタシはお金持ちに恵んでなんてもらわない! ちゃんと生きていくんだから……一人でも、何もなくてもっ!!」
「あ……」

 ミルモの瞳には憎しみの炎が灯っていた。そんな……二人で出ていっただなんて……本当はザイーダに殺されたのに──!

「ミ、ミルモ!」

 あたしの声は届かなかった。光注ぐ街の闇に、アイガーの慰める啼き声だけが響いた──。
 





■ツルツルピカピカの石畳



■青空市場のドライフルーツ