「ふうん。この街で紐付けないで散歩するなんて、あんたよそ者?」
「あ、うん……ちょっと旅をしていて、昨日着いたの」
「旅行者か。優雅なもんね。こんな物価の高い街に来られるなんて」
「あの、いや、そういう旅じゃなくて……」
「じゃあ何なのよ! やっぱり人売りなのっ!?」

 あたしは真っ向から敵視して噛みつくミルモにたじろいた。反論したものの旅の理由なんて言える訳がない……あなたを癒しに来ただなんて──。

「あ、あの……あ、ねぇ? お名前何て言うの? あたしはユスリハ。この子はアイガー」

 張り詰めた場の空気を変えようと、あたしは咄嗟に話題を変えた。こんなに撥ね付けられた懐に、どうやって滑り込めばいいのだろう?

「名前なんてどうでもいいじゃない……」

 途端(しぼ)んだ風船のように、ミルモは言葉途中で俯いてしまった。名前──聞かない内につい呼んでしまったら、益々怪しまれてしまうのだ。早く名乗ってほしかった。

「どうでもいいなんてことないわ。きっと可愛い名前があるのでしょ?」

 あたしは一歩前へ近付いて、目線を合わせるように腰を降ろした。ミルモの反発する雰囲気は変わらなかったけれど、彼女は後ろに下がろうとはしなかった。

「……ミルモ」

 数秒()を置いて、ぽそりと小さく呟かれた名前。あたしは進んだ一歩分、心も一歩近付けた気がした。

「ミルモ……やっぱり可愛い名前だった! ね、これから時間あるかな? あたしまだこの街の周りが良く分からなくて……アイガーを思い切り走らせられる所に連れていきたいの。案内してもらえない?」

 その問い掛けと共に、アイガーが垂れたミルモの手の甲をペロりと舐めた。ミルモも応えたそうにチロりとアイガーと眼を合わせる。が、その時。