「べ、別に……気にしないわよ。今まで散々抱き締めてきたくせに、どうして今更そんなとこ気遣うの? あ、あたしはもう一度空を飛んでみたいだけだしっ」
「……そ?」
「そうよっ!!」

 耳の先の赤みが頬まで到達した気がして、あたしは途端(きびす)を返し歩き出した。「ユーシィ、こっちだよ」呼ばれ慌ててあいつの背中に駆け寄る。ラヴェルは乗り場の向こうの崖っぷちに屹立(きつりつ)し、剣を入れた袋が背中側に回るよう肩掛けした。それからいつもの黒いマントを鮮やかに(まと)う。

 風は完全に丘の後ろから海へ向け下方に強く流れていた。一つに結われたあたしの髪が、頬を撫でながら揺れた。

「大丈夫そうだね。では……失礼、プリンセス」

 言いながら相対したあいつは、心の準備が出来ないままのあたしをお姫様抱っこした。

「念の為に両手を首に回してくれる? ──うん、ありがと。じゃあ、行くよ? ユーシィ」
「う……うん」

 ラヴェルがたった一歩を前進した。急に重力の衝撃に晒されて、グッと瞼を(つむ)ってしまう。それがふわりと風に包まれ──。

「ほら……コテージが見えるよ」

 あたしは強く握り締めていた彼のうなじの両手を和らげた。光の街へ真っ直ぐ降りていったと思うや、弧を描くように右へ旋回する。笑顔のラヴェルと笑顔を取り戻したあたしは、明かりの点いた温かな『我が家』へと、吸い寄せられるように流れていった──。







      ◆第六章◆頼ってばかりはいられない!? ──完──



■狭い路地



■看板代わりの街灯



■ライトアップされた城壁



■丘からの夜景