「凄い……綺麗だね」

 あたしは眩しい程の夜景を目に焼きつけながら、独り言のように呟いた。こんなに美しいのに……でもその中には幸せな人と不幸な人がいる。

「凄い……綺麗だと思う」

 左上からゆっくりと落ちてくる返事に、何気なく視線を合わせた。いや……合うのはおかしいでしょう。その言葉と共にある瞳の行き先は、夜景じゃなくあたしって──。

 気付かなかった振りをして、頬が熱くなった顔をおもむろに戻した。そう言えば……初めの頃は平気で「恋してる」って言われたっけ。冗談だろうと聞き流したけれど、今のラヴェルはあたしをどう思っているのだろう? そして今のあたしは……どう思っているの? 今なら──彼が何かを言えば、あたしはそれを受け入れられるのだろうか?



「自分は……ユーシィに好かれることなんて、きっとないから」



 刹那思い出された台詞に、心の奥底がズキンと痛んだ。あの時は驚いただけだったけど……この辛い痛みは何だろう?

 あいつはあたしに触れる資格なんてないとも言った。資格──あたしの両親が殺されるきっかけを作ってしまったから……でもそんなの、十一歳の彼には予測出来る筈のない未来だった。あたし自身、ラヴェルに責はないと告げた今は──彼の中で何かが変わっただろうか? 強情な彼を変えることは出来ただろうか?

「風向きが変わった……ユーシィ、そろそろ行こう」

 ぼぉっと光の渦を見詰めていた横顔へ、ラヴェルはその台詞と共に身体を九十度回転させた。もう行っちゃうのか……望む時間は短く感じるものね。