街の大通りは東西に延びていて、ラヴェルは途中北方向へ曲がり、狭い路地の階段を登っていった。街灯にはその下にある店の売り物が、看板代わりに描かれている。もうそれなりに遅い時間なのに、まだまだ店もテラスも盛況だった。

 進んだ先には日中見掛けた北門が(そび)え、その下をくぐり坂道を上がればゴンドラ乗り場だった。さすがに昼間の勢いはないが、それなりに人は行き来している。けれどその殆どがカップルで、少々目のやり場に困るようなお熱い状況も多々見受けられた。

 そんな目に毒な視界を眼下へ向ける。滑らかに上昇するゴンドラが、街の明かりからどんどん離れてゆく。次第に黒々とした海と云う闇の世界に、卵型に煌めく(光の玉)が浮かび上がった。

「少し眺めていく?」

 丘に辿り着くまでの短い時間ですら、惜しむように美しい夜景に見とれてしまった。きっとそれに気付いたラヴェルは、あたしを(おもんばか)ってくれたのだろう。お互い飛行船から必要な荷を取り、あとは帰るだけとなったところで、ふと足を止め問い掛けてくれた。

「う……ん」

 タラがからかってくれたお陰で、ちょっと同意するのに躊躇してしまった。そうでなくとも乗り場横の展望スペースは、愛を語り合う恋人達で溢れているのだ。

「あ、()いた。行こう?」
「……うん」

 フェンス越しの一組が去っていくのを見つけたラヴェルは、埋まる前にとあたしを急いで連れ立った。

 海から吹き上がる風が心地良い。降りてゆくゴンドラの向こうに再び光を集めた街が見えた。ずっと彼方に点々と並ぶ灯りは船だろうか。もしかしたら飛行船かも知れない。