こいつとずっと二人ではないことの分かったあたしは、何となく肩の力が抜けたように、狭いコクピットでさえも緊張は解け、ラヴェルの教える操縦技術もすんなり頭に入っていった。何より『授業中』のラヴェルは真面目そのもので、今までの軽薄さは一ミリも見つからなかったのだ。お陰で初日の授業は順調に終わり、その後の独りエンジンルームでの点検作業も、あたしへの歓迎会を兼ねた豪勢なディナーも、なかなか快適な時間となった。

 が、二人でキッチンの片付けを始めて、にわかに不安要素がふつふつと脳内を闇色に染め出した。まさか寝台は一つしかありませーん、なんて言わないわよねぇ……?

「ユーシィ、此処はもういいよ。あとは自分がやるから、シャワー浴びて来て」

 な、なんか、恋人同士みたいな会話で緊張するんですけどぉ……!

「ああ、ちゃんとタオルはあるから心配しないで。一応この船、四人用に装備されてるから」

 ほっ! そ、そうだよねー、メンバー増えるって言うのだから、それなりに数は有る筈か。

「う、うん」

 あたしは示されたバスルームへ自分の着替えを抱えてそそくさと駆け込み、その扉に付けられた鍵を急いで施錠した。さすがに限りあるゴンドラ内のスペースだから、脱衣所もシャワー室もそれなりに狭いけれど、ちゃんとあったかいお湯も使えて心地良い。こういう時に髪が長いのは面倒だな、と思いながらも洗髪をさせてもらい、支度を整えて出てきた頃にはキッチンもすっかり片付いていた。

「あの、ありがと」

 タオルで髪を撫でながらお礼を言う。こんなシチュエーション、祖父としかなかったからな……まぁ、ラヴェルをおじいちゃんだと思えばいいか。

「じゃあ自分も入ってくるから適当にしてて。其処に電源あるから鏡とドライヤーは此処に置いておくよ。あと上空で眠るなんて初めてだよね? 気持ち落ち着かないだろうから、これでも飲んで」

 ラヴェルは日中同様チェストに座り込んだあたしに、次から次へと説明しながら、鏡とドライヤーと、そして湯気の立つホットミルクを差し出した。って、随分至れり尽くせりだ……!