「ううんっ、こっちこそごめん! 大丈夫だよ、それより正直に話してくれてありがとう」

 あたしは気持ちを切り替えながら、薄い笑みを(おもて)に乗せて振り返った。

「じゃあ……今日のところはこれで戻ろう。まだ城壁はあと半周もある。少し早足になっても良い?」
「うん。そろそろお腹も空いてきたし、タラも待ちくたびれちゃうしね!」

 元気を取り戻したお互いの微笑みがかち合って、あたしは少しはにかみながら前を歩き出した。あんなに小さな子供が空腹を抱えてしゃがみ込んでいるというのに、これから美味しい食事が待っているのかと思えば、さすがに気が引けてしまう。それでも今は忘れよう。あたしに唯一出来ることは、ラヴェルに『明日』を忘れさせ、楽しい『今』を与えることなんだから──。





 目前の高い建物が作る街への死角。それが進むにつれ、真っ正面に大きな鐘塔(しょうとう)を出現させた。ぐるりと巡り、その塔の向こう側に再び海が見えた頃、西からの暖かな光を溶かした空は、優しいラヴェンダー色に染まろうとしていた──。



■孤児達の溜まり場のイメージ(左下)



■夕暮れ時の街