「明日からしばらく午前はタラと剣術の練習、午後は此処を訪れてミルモと接触を図るから、自分が必要な時は此処へ来て。もちろんアイガーに語り掛けても、ピータンを通して想いは伝わるから、それでも十分大丈夫だよ」
「……」

 当たり前のようにこれからを語るラヴェルに対して、あたしは何も言葉にならなかった。どうしよう……ラヴェルがミルモの哀しみを癒せば、その苦しみはウェスティの思う壺になる。

「こ……此処が彼女の家なの?」

 見える景色は縦に長い幾つかの民家で、彼女が身を縮込ませる草地は、その共同中庭のようだった。

「ううん、ミルモの家は街のもっと内側に在る。でもそちらには帰らずに……この辺りは孤児(みなしご)の溜まり場なんだ」
「溜まり場……」

 観光客が沢山訪れ、沢山のお金が落とされる煌びやかな街。なのに見えない片隅には、そんな恩恵に(あずか)れない弱者が身を寄せひしめき合っている。まるでウェスティの美しい外見と醜い内面を模したような、裏腹な二面を手にした世界……。

「ごめん、辛い気持ちにさせて。でもこれ以上、何かを内緒にしておくのもユーシィに悪いから……」

 後ろ上方より遠慮がちに差し伸べられた想いが、あたしにハッと顔を上げさせた。何をしてるんだ……あたしはもう、ラヴェルに淋しい顔を見せないって決めたのに!