ラヴェルは日暮れる海を右側に進みながら、左下の城壁内側をチラチラと気にしていた。あたしもその後を追い掛けつつ、何を探しているのだろうと眼下に目を向ける。南東のカーブ、小さな島々の景色を楽しめるよう望遠鏡の設置された広場の手前で、ラヴェルは急に足を止め、あたしはその背中に顔を突っ伏してしまった。

「ご、ごめんっ」
「いや……いきなり止まったのは自分だから、ごめんね。この真下……小さな女の子、見える?」
「え……?」

 その言葉であたしは壁に寄り添い、少し身を乗り出して、城壁が作る広い陰の中に、膝を抱える少女を見つけた。

「ジュエルの最後の救出者──名前はミルモ、六歳。君と同じ【薫りの民】の子だよ」
「あたしと……」

 真上からでは良く分からないけれど、じっと動かない彼女は全てから隔絶されて、ただ独り時が過ぎゆくのを待っているみたいだった。

「彼女の母親が【薫りの民】だった。ザイーダに襲われた時にご主人も一緒に居て、共に(さら)われて殺害された。ミルモは友達の所へ遊びに行っていて無事だったらしい」
「あ……でも、それならあの子も標的に入るでしょ? それともあたしみたいにウェスティの花嫁候補に選ばれたの!?」

 そうよ……いつか子を産める歳になれば、彼女もウェスティの花嫁か脅威の対象、どちらかになり得る筈。

「実はあの子は父親の連れ子で、実質【薫りの民】の血を継いでいないんだ。二度とスティに狙われることはないから安心して」
「そ、そうなんだ……良かった」

 ホッと一息安堵の空気を吐き出したあたしを、ラヴェルは柔らかく見詰めていた。