「いいね? ロガールの所へ降り立った時を思い出して。大切なのは右手の感覚とタイミングだけだよ。ほら、見えてきた……あの丘の草が繁った部分。あれを目標にして」

 あたしはラヴェルの言葉を一つ一つ噛み砕き、その都度(つど)頷いて操縦桿を握り締めた。集中力を吸い込むように呼吸し、自動操縦を解除する。丘の周りはごつごつとした赤土の荒野なのに、示された場所だけが、青々とした丸い(しるし)を描いている。

「うん、良い調子だね。これで方角は真っ直ぐ定まった。あとは降りるだけだから、もう肩の力は抜いて。あの感覚を取り戻して……操縦桿が自由になるあの感覚」
「うん」

 それでもその瞬間を見極められるのか、あたしにはまだ不安があった。ついチラチラと助けを求める視線を送ってしまう。けれどそれに気付いているのに、ラヴェルは手を伸ばそうとはしなかった。

 徐々に近付いてくる緑のマーク。風は一定で穏やかで、あたしの味方をしてくれている。心を全てに開放しよう。きっと船は『その時』を教えてくれる──。

「あっ、今……っ」
「上へ引いて」

 慌てたあたしの言葉が、穏やかなラヴェルの声で落ち着いた。『瞬間』を得たあたしの手は、焦ることなく滑らかにレバーを引き上げていた。

「OK! 少しずつ前へ傾けて」

 導かれるように降下する飛行船。やがてあの羽のようなフワリとした着陸が、あたしの手中に収まった!