タラの手にしたカップがテーブルに戻されると同時に、彼女とあたしのお腹から警告サインが発せられた。

「とりあえず話はこれくらいにして何か食べまショ~! もう限界!!」

 タラはお腹を抱えて、キッチンに残しておいたパンケーキの生地を焼き始めた。あたしもサラダを盛り付けに彼女に続いて流しに立つ。

「ラウルが焼いた方が上手なんだけどネ~、まぁ王家直伝の美味しいタネだから、誰が焼いてもそれなりに美味しいけど」
「彼は王家から料理を学んだんですか?」

 ずっと王宮に通っていたのだ。そんな時間もあったかも知れない。

「ん? あー……ううん、王家からって言えばそうかも知れないけれど、実際には彼の母親からヨ」

 え……?

「いえ、だって……昨夜彼は──!」

 お母さんは家事全般が苦手だったって言ったのに?

「ゴメン……その『ウソ』はワタシが謝るわ。あの子の母親は何処にでも嫁げる自由を持っていたから、ちゃんとその辺の手習いはしていたのヨ。むしろ料理はお得意だった。でも先代王──彼女のお兄さんネ、王が亡くなった頃に彼女も様々な苦悩に(さいな)まれたのネ。心身を崩されて……それから七年間、王宮住まいになる十八歳までは、ラウルが代わって家事を請け負ったの。お母さんのアドバイスとレシピ帳から独学で」