ドヨーン……。

 そんな擬音が似合いそうな顔をして、あたしはテーブルに左頬を押し付けていた。

 見える景色は遠くに船首の空──の手前ずっと近くに食べかけの朝食。進まないフォークに何の疑問をぶつけることもなく、ラヴェルはいつもの淡い微笑で「ちょっと用があるから、後で片付けてもらえる?」そう言って階下へ降りていってしまった。

 別に普通にしていればいいのに……あたしのバカ。

 起き抜けあいつは普段の調子で「おはよう、ユーシィ」って言ったんだ。あたしもそれにちゃんと「おはよう」って返せた。ツパイはいつも通り今日から三日は起きないし、タラは何故だか寝過ごしたので、あたし達はピータンとアイガーに食事を差し出し、二人きりの朝食を始めた。そうよ……今までと特に変わらない朝。なのにあたしの後頭部には、徐々に昨夜の一件が重く()し掛かってきて……。

 あ~あ、助けてもらったお礼を言う筈だったのに、何で責めたり叩いたりしたのよ!?

 今までのあいつに戻ってほしかっただけなのに。もちろん、キスのおねだりはされなくていいのだけど。

「アラ~ユスリハちゃん、どうしたの? 朝から夫婦喧嘩でもした?」

 背後からそんなとぼけた質問が投げ掛けられて、あたしはだるそうに首を反転させた。が、ふと言葉の意味を理解し、慌てて上半身を直立させた。

「お、おはようございますっ。って、誰が夫婦ですか! それに喧嘩なんてしてません!!」

 眠気眼(ねむけまなこ)(こす)りながら隣の席に着いたのは、今朝も透け透けネグリジェ下のセクシーなスタイルが眩しいタラだった。

「んじゃ、どうしちゃった? 昨夜あの子を叩いたことでも反省してた?」
「えっ!!」

 ど、ど、ど、どうして知ってるの!?

 驚き固まったあたしに、タラは頬杖を突いてニヤリと(わら)った。

「ふっふん~タラねえに秘密なんて通用しないのヨ? でも反省なんてしなくてOK! むしろ良くやってくれたわっ、ユスリハちゃん」
「え……?」

 タラは一度席を立ち、ラヴェルの荷物の入ったチェストを開いてみせた。