その時、ふと気が付いた。

 ラヴェルが『ラヴェル』と名乗ることと、自分を『自分』と呼ぶことの理由を。

 僕とか俺とか私とか、自我を出すことすら捨て去って、こいつはヴェルという王国自体を背負おうとしているのかも知れない。

「全てが終わったら……このまま飛行船で行ける所まで行くのもいいかもね」

 自分で紡いだ言葉を嘲笑うかのように、フッと息を吐き出して体勢を立てる。それを機に気持ちを切り替えて、時々見せるにこやかな笑顔で楽しそうに声を上げた。

「お嬢様、明日の朝食は何をお召し上がりになりますか?」

 バカね……何を作っても、あんたの料理は美味しいのに。

「どうしてそんなに料理が上手いのよ」

 あたしは少し拗ね気味に尋ねた。スープは引けを取らないけれど、他の料理はきっと負けてる。

「母は王家の出だったからね。そんな手習いをしてこなかった所為で、家事全般が苦手だった。だから……小さい頃から自分がね」
「お互い苦労したわね。あたしも祖父がてんで家事の出来ない人だったから、八歳からは頑張ったわ」

 そうぼやいたあたしを懐かしそうな優しい笑顔で見下ろして、ラヴェルは二杯目をほぼ空けた。そう言えば……こいつは八歳のあたしを知っているんだっけ。やだなぁ~今の言葉で何かを思い出したんだろうか?