な・ぜ……ど・う・し・て。

 そんな簡単な二文字や四文字が、口から出てこなかった。

 でも今思えば、きっと訊かなくて良かったんだ。だってラヴェルにとって故郷(ふるさと)は、決して楽しい場所ではなかったから。

 それでも一つの推測に思い当たった。──『ジュエルの花嫁』に選ばれたあたし……きっとヴェルに行ったら、その噂は広まってしまうんだろう。みんなから好奇と興味の眼に晒されることを、ラヴェルは危惧してくれたに違いない。──あたしはそう思うことにした。

「あ、あんたは……全てが終わったら、ヴェルに帰るんでしょ?」

 そうして代わりに出てきた言葉は、そんな未来への問い掛けだった。

「……どうだろ。帰らない、かもね」

 少し投げやりな答えが返され、ラヴェルはおかわりを一口飲んだ。

「そしたら誰が継承するのよ? ジュエルには宿主が必要なんでしょ?」

 右肩を窓に押し付け遠くを望んだ横顔は、微かに微笑んで見える。なのに彼の中身は、何故だか空っぽに思えた。

「スティが『外へ出た民』を優先したお陰で、未だヴェルには継承者を(はぐく)める王家の人間も、君達の民の後継者も少なからず残ってる。自分じゃなくても宿主はこれから現れるよ。スティがヴェルに戻って殺戮を開始する前に、自分がどうにかそれを止められればだけど」
「……」

 こいつはどれだけの命を背負おうとしているのだろう。